2025/07/02

自分だけのキーマップを作るためのアイデアの見つけ方

「なんで他の人の真似をしてもうまくいかないのだろう?」

誰もがカスタムキーボードを自作し始めた頃は、ネットで見つけた「最強のキーマップ」をそのままコピーして使っているのではないでしょうか。でも、どうもしっくりこないという感覚もお持ちのはずです。指の長さも手の大きさも、普段書くコードも違うのに、同じ設定が合うわけないですよね。

キーマップはスマホのホーム画面のように、人それぞれ違って当然です。日々の作業効率を上げていくうえで大切なのは、他の人の設定を参考にしながらも、自分にぴったりの配置を見つけることです。

まずは自分の「クセ」を知ることから

効率的なキーマップを作るには、まず自分のタイピングの特徴を知る必要があります。

  • どんなプログラミング言語をよく使うか?

  • 特定の記号や組み合わせを頻繁に入力するか?

  • 指の長さや手の大きさはどうか?

  • 現在のメカニカルキーボードで「ここが押しにくい」と感じる場所は?

弊社のチームでも、Python派とJavaScript派で全然違う設定を使っています。Pythonなら「_」(アンダースコア)をよく使うし、JavaScriptなら「{}」(波括弧)や「=>」(アロー関数)の出番が多い。言語によって最適な配置は変わります。

KeymapDB.com:宝の山のような参考資料

KeymapDB.comは、QMKユーザーが実際に使っているキーマップを公開しているサイトです。ここは本当に素晴らしくて、自分と似た環境の人がどんな設定を使っているか簡単に調べられます。

例えば、36キーの分割型キーボードでプログラミングをしている人、エルゴノミックキーボードColemakレイアウトを使っている人、といった具合に絞り込めます。

「あ、この人もPythonメインですね。この記号配置は参考になりそう」 「なるほど、こんな風にレイヤーを分けるのか」

そんな発見がたくさんあります。完全にコピーするのではなく、良いアイデアを取り入れて自分なりにアレンジするのがコツです。

Colemak-DHレイアウト:QWERTY配列からの卒業

長年QWERTY配列を使ってきた方には、ちょっと勇気がいる話ですが、Colemak-DHレイアウトは検討する価値があります。


出所:Wikimedia (https://commons.wikimedia.org/)

QWERTYは、実はタイプライター時代の制約で生まれた配置の名残りであり、現代のタイピングには最適ではありません。一方、Colemak-DHは、よく使う文字を打ちやすい位置に配置し直した、より合理的なレイアウトです。

弊社チームメンバーの一部もColemak-DHに移行しましたが、慣れるまでの2週間は大変だったようです。でも慣れてしまうと、指の移動が少なくて済むので、長時間タイピングしても疲れにくくなり作業効率も上がったとのこと。

プログラミング言語別のカスタマイズ戦略

C/C++開発者なら、「{}」「[]」「()」「」「&」「->」「::」あたりの配置が重要です。ポインタ操作が多いので、「」と「&」は押しやすい場所に置きたいですね。

Python開発者は、「_」(アンダースコア)と「:」(コロン)の使用頻度が高いです。インデントも重要なので、タブキーの位置も工夫する必要があります。

JavaScript開発者は、「{}」「[]」「()」に加えて、「=>」「===」「!==」、そしてテンプレートリテラル用のバッククォートもよく使います。

シェルスクリプトを書く方は、「$」「|」「&」「>」「<」「;」「\」が大事。これらがスムーズに入力できると、作業効率が格段に上がります。

分割型キーボードならではの設計原則

弊社のPiantorやChocofiのような分割型キーボードを使う場合、設計の考え方が少し変わります。

分割キーボードでは、親指を活用するのが最大のポイントです。従来のキーボードでは、小指がShiftやCtrlを担当していましたが、分割型キーボードなら親指にこれらの修飾キーを割り当てられます。ちなみに親指は一番力の強い指なので、負担を軽減できます。

左右の手の役割分担も重要です。よく使う記号の組み合わせで、片方の手で記号、もう片方の手で文字を入力するようにすると、リズムよく打てます。

例えば、「!=」という組み合わせなら、左手で「!」、右手で「=」を押すような配置にすると入力スピードが上がり、タイプミスも減少します。

QMKの便利機能を活用した上級テクニック

QMKには、普通のキーボードにはない面白い機能がたくさんあります。

タップダンスは、同じキーを何回押すかで動作が変わる機能です。1回押すと「.」、2回押すと「..」、3回押すと「...」みたいな設定ができます。

Mod-Tapは、短く押すと普通の文字、長押しすると修飾キーになる機能です。「a」キーを長押しするとCtrlキーになる、といった設定が可能です。

コンボキーは、複数のキーを同時押しで特別な機能を実行する仕組み。VimやEmacsのキーバインドに近い感覚で使えます。

レイヤー機能は、たとえばFnキーを押している間は数字キーがFnキーとして動作するような、物理的なキー数以上の機能を実現する仕組みです。

スタッガード配列と格子配列の選択

QMK対応プログラマブルキーボードでは、キーの配列も自由に選択できます。

従来のスタッガード配列は、タイプライター時代の制約による配置ですが、我々が慣れ親しんだ配列でもあります。

格子配列は、すべてのキーが整然と並んだレイアウトで、論理的で覚えやすいというメリットがあります。プログラマーにとっては、記号の入力も規則性があって覚えやすいです。

縦型スタッガードは、各指の長さに合わせてキーを縦方向にずらした配置です。エルゴノミックキーボードの利点を最大限に活用できる配列として注目されています。

実際のキーマップ作成プロセス

弊社が新しいキーマップを作る時のプロセスをご紹介します。

1. 現状分析 まず、今使っているメカニカルキーボードで「どこが不満か」をリストアップします。「小指が痛い」「この記号が遠い」といった具体的な問題点を洗い出します。

2. 使用頻度調査 1週間ほど、自分がどの文字や記号をよく使うかメモします。プログラミング言語によって、かなり偏りがあることが分かります。

3. レイアウト設計 KeymapDB.comで似た環境の人の設定を参考にしながら、自分なりの配置を考えます。この段階では、とりあえず「だいたいこんな感じ」で十分です。

4. 小さく始める いきなり全部を変えるのではなく、1つのレイヤーから始めます。まずは基本の文字レイヤーだけ変更して、慣れてから記号レイヤーを追加します。

5. 継続的改善 使っていて「ここは使いにくい」と感じたら、すぐに調整します。VIAやVialを使えば、リアルタイムで変更できるので、試行錯誤を繰り返します。

レイアウト変更時の現実的なアドバイス

新しいレイアウトに移行する時は、正直に言って最初は辛いですしもどかしいです。タイピング速度が半分以下になることもあります。

でも、焦る必要はありません。2-3週間は忍耐期間と考えて、速度よりも正確性を重視しましょう。毎日少しずつでも触れることが大切です。

また、重要な仕事の直前にレイアウトを変更するのは避けましょう。余裕のある時期に始めるのがおすすめです。

はんだ付け不要キーボードでの気軽な実験

弊社のはんだ付け不要キーボードなら、技術的な心配をすることなく、キーマップの実験に集中できます。組み立てが簡単なので、「とりあえず試してみよう」という気軽さでチャレンジできます。

特にホットスワップ対応のモデルなら、スイッチの交換も簡単で、物理的な打鍵感とキーマップの両方を同時に最適化できます。

コミュニティとの関わり方

キーマップ作りで困った時は、一人で悩まずにコミュニティに相談しましょう。QMKのDiscordサーバーや、日本のキーボード愛好家のコミュニティは、本当に親切な方ばかりです。

「こんな機能を実現したいのですが、どうすればいいでしょう?」と質問すれば、きっと親身になって答えてくれます。

逆に、自分が良い設定を見つけたら、ぜひ他の人にも共有してください。そうやってコミュニティ全体が成長していきます。

キーマップ作りは、一見複雑に見えますが、実際は楽しいパズルのようなものです。自分だけの最適解を見つけた時の喜びは、格別ですよ。